甲子川上流

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダム

当時工事中だった五葉山麓の鷹生ダム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このインタビューは1996年に「カワセミの会」が行いました。

岩手県盛川

プロが見続けてきた海と山河と魚

盛川漁協 盛川さけ・ます増殖協議会場長 
           木下弥重寿さん
               

条件の悪いサケ漁

『ここで、サケを放流するためには、ヤマメ、イワナを放流しなさいと義務づけられているんですよ。(水産資源保護法)それはヤマメもイワナも海に降りてマスになって帰ってくる習性のあるやつがいるんで、だから義務づけられているんですよ。』
 木下氏のこの言葉は意外であった。渓流釣りでしかここに来たことのなかった私はヤマメにしろイワナにしろ、それ自身が放流の主対象として位置付けられていると思い込んでいたから、この言葉のように添え物というニュアンスで語られることに驚いたのだ。そして遅まきながら、盛川がサケ主体の川だったことに気付いたのである。
 サケの放流は、この辺りから北にかけて漁業の重要な一旦を担っている。その産業としての立場からすれば、ヤマメやイワナの放流は負担のかかる煩わしいことなのかもしれない。
 実際、河川組合はどこも台所が苦しいと聞く。遊漁料の収入だけでは放流魚を買うことさえおぼつかない河川も多い。釣堀やレジャー施設などの副業で利益をあげているところもあるが、それは動員できる人口数を有する都市部周辺に限られてくる。盛川は『淡水の経費の赤字はサケで補填し』『それができるからいいちゅうことで』まかなわれている。つまり、この川のヤマメやイワナは、サケによること大なのだ。

 では、盛川のサケはどんな状況なんだろうか。
今期『秋に始まって今年の一月末までで67000匹ぐらい』の漁獲数だったという。この数字が事業的に妥当なのかどうか聞きそびれてしまったが、獲れすぎと輸入サケに押されて、国内サケの価格下落はなはだしい。『それがキロ3円とか5円とかいわれ、あげくいらねっつやりだされたら』たまったものではない。木下氏のたずさわる孵化場では『稚魚生産は一切で6円ぐらいかかる』という。当然売買価格に対する『稚魚生産がえらい高くついちゃう』ことになり『どこでコストを落とすかちゅうと、例えばいままで1.5gで放流していたものを1gで放流するとか、早めにローテーションを組んであまり水を汲みあげないとか。』生産過程の合理化と短縮が迫られることになるのだが『でもね、人間が思ったように、じゃ1gで放流して、ていうと、川に水がなかったりね。なんかもう、はー。」自然相手の難しさがつきまとって『切り詰めたいんだけど詰められない』という。
 そればかりではない『うちの川はね条件がすごく悪いんです。地図を見ればわかりますが、一番下の南の方なんですよね。サケがここに来るまでに定置網が14カトウある。他の川は定置が2カトウぐらいしかない。サケは北から下がってくるから途中で間引かれちゃう。どうしてそれがわかるかっていうと、釜石とか山田とか途中の定置網にかかった魚の背鰭にパチって標識をつけて、それをまた離してやるわけ。それがこっちの生まれた川にもどってくるわけですよ。そうすると番号が全部違うから、何月何日どこの定置でかかって、何日後にはうちの川にきているよとかがわかる。どこで間引かれているかがすぐわかる。今年は釜石にずいぶんやっつけられたとかね(笑)。』
 かんばしくない材料はまだある。汚染問題と後継者問題である。『大船渡湾に埋め立て計画があって、湾内のヘドロを結構入れるらしいんですよ。その濁ったところへサケが入ってこれるかこれないか、ヘドロのとこまで来て卵出す必要があるのかないのか。』これは『みんな歳とっているでしょ。ここ埋め立てるっても漁業後継者いないからですよ。国やら県から保賞金もらって……』
 他と同じようにここにも漁業の黄昏がある。儲からないから若い人が跡を継がないのかの問いに。木下氏は『きついですよ。地震なんかあればメシ喰ってるときでも飛び出して見にくるもの。排水管がちょっとはずれても家一軒簡単に水浸しになるからね』『神経やすむことないもの。若い人じゃ勤まらない』と、自分の立場から違う見解をおしゃった。
 一方似たような背景からであろう北海道標津町の忠類川ではサケの別の活用法が試みられている。ご存じの方も多いだろう。サケを釣りの対象として釣り人に解禁する試みである。
 『あれはね、漁業権放棄なんですよ。サケをとるちゅうのは県知事の許可がないとだめなんですよ。ここにもよく釣らしてくれってくる、ただ引っかけるだけでいいからつうのが。でもサケはまだ遊びの対象ではないんですよ。それをやらせると漁業権とられてしまう。遊びの対象にするには漁業権を放棄しなさいということです。
 北海道がなぜそんなことができるかというと、北海道にはまだ保護河川というのがあるんです。北海道は広いですから罷熊に喰われてもかまわないテスト河川ていうのがいっぱいあるんです。』『北海道がなぜ20000〜30000匹も獲れる川を釣りに開放したかっていうと、規模が違うからで、あそこは道全体の放流が12億とか13億で、多いから全体で5千万匹放流数を減らしましょうという。それは、例えば獲れた数字が帳簿上では数百万匹だとしても実際はもっとこぼれ落ちていて余計に魚を作っていた。その分を適正にしましょうということで減らすわけだから痛くも痒くもない。
 道はうまいよ、十勝、桧山、釧路、根室とか大きい事業所は国がやっているところが一つづつあるから。岩手で20000〜30000匹獲れる川っていったすごいことですよ。』『それにあそこは川の流程が長い。ここでは湾内に入ったらもう産卵の体になっているから、なににも見向きもしない。沿岸ではイワシみたいにキラっと光るものには、まだ飛びつくけど、腹を割ってみると全然消化はしていない。』たとえサケが釣り人に解禁されても盛川でのサケ釣りは可能性が薄いようだ。薬漬けの養殖魚

◎ヤマメの放流はまだ(3月)してないんですか。
 『まだです。まだ放流サイズの稚魚ができてる段階じゃないんですよ。養殖人はまるっきり河川指定をされていない上流、護岸工事もなにもしてないところでやるんで、なんでかつうと県の管轄の河川指定になってしまうと、災害が起きた場合県が復旧しなくちゃならない。ずっと山の奥の上流であれば水がでても、大水がでたかぐらいで済めるから、県の管轄以外の被害がでてもそしらぬところでやる。で、上流にいけばいくほど水温は下がるから、こっちで今水温が10度でも上流はまだ2〜3度ですよね。
 だからまだ、去年の秋に卵だしたやつが孵化して泳ぎはじめたぐらいの小さいサイズで出荷できるサイズじゃないですよ。
 ポンプで水をくみ上げてやるような電気代かけてやったら合わないし、人を大量にやとっても合わない。大きい所、日光みたいなところだったらそれでも採算が取れるんですよ。でも岩手県あたりではできないですよ。』

◎養殖は県でやっているんでしょうか
 『養殖人は個人です。放流の養殖魚を買うのは県の淡水漁連をとうして全部斡旋してもらう。』◎最近支流の禁漁区域を解放しましたね。どうしてですか。
 『これちょっとねえ、昔をちょっとひもとくと昭和30年代ちゅうのは船でこの川の辺りまで行けたらしいんですよ。そのぐらい水量があったらしいんです。で、漁業としては地獄網と称して根こそぎ獲ってしまう非常に残酷な漁業をしていた。それを県の方から指摘をうけて、そういう漁業のやりかたをしていたら漁業の免許をやらないぞと。で、じゃーこれを禁漁区にしましょうと。それでしたんです。
 それで、これは10年に一遍づつ更新してきたんです。で、この前の更新の時に、川自体に水量が少ない、釣り人口は増えてきている、特にもう意味はないということで、オープンにしましょうと。
 また、この奥に部落があるんですね。行くとね、これあんたがたが作った川かっていわれるんだ。これは神代の昔からある川なんだ。なんで禁漁の看板なんかたててくるんだ、と。子供が目の前に川があっても魚が釣れないつうのはおかしいと。指摘されればもっともなんです。じゃーよしわっかたそのとうりだ。オープンにしましょう。すきなだけ釣って下さい。但し、監視員が来れば金をとられるから、これは地元の利だからね。でも若干は自然保護のために禁漁区を残しておきましょうと、500mぐらい区間を設けたんです。』

◎在来種保護ということではやはり禁漁区があってもよかったのでは
 『禁漁にしておくとかえって密漁が多くてね。前にたまにドライブがてら行くとね、するとすごい人が来てますよっていわれて。まずいな、じゃ開けた方がいちゅって。
 ここは2、3年かけて北里大学の生徒と徹底して調べ尽くしたことがあったんですが、数が少ない。魚がいない。あれ、ある程度数が増えると淘汰されているんだね。今のくらいなら適正量なんだけれどもじゃー大きいかちゅうとまだエサが足りないちゅう。
 この間禁漁解いた後に釣ってる人の話聞いたら、痩せてるよっていってた』

◎ところで、川釣りはされるんですか
 『しないなあ。海の方で育っているからね。だいち川魚喰いたくないもの。
 あのね、養殖魚つうのは薬喰ってる。適量入れなさいって書いてあるけど、それじゃ赤字になる。ある程度成長を早くするにはビタミン剤を入れる。
 実際に、自分でヤマメとかイワナをつくったことがあって、そうすると今この時期にこんな稚魚になるわけないなと、わかっているから、やばいなって。なんでこうなるかってわかる。餌だなって。餌にビタミンとか薬品がいっぱい入っているからこういうサイズなるつうのがわかる。
 アユなんかも自分で養殖したことがあるからね、すごい添加物入れるんだから、あれ。水産庁からマル秘の水産医薬品リストがくるんですよ。どういうのを使っているか使ってないかつうね。まあ、製薬メーカーはよくつくるものだと思うくらいでね、アユ用からピラニア、ニジマス、エビ、タイ、ハマチ、アジそれらにはどういう薬を使っているか、それ見ると養殖の魚が喰えなくなる。こうゆう薬を喰わすとどういう病気になるか、それを直すにはどの薬がいいかっていうのもわかってる。』
 『あと、たとえば1ケ月かかるところを20日で大きくするにはビタミンがいいとか、ニンニクエキスを入れれば糞の状態まで良くなるとかあるんですよ。これは害ないからね。でも1匹2000円とか3000円とかならいいけど、1匹300円じゃね。』『三倍体だってやろうと思えばできるんですが、ただ三倍体作っても種ができない。これからあんまり魚価が安くなれば、どっかの川、メスだけつくろうやと、例えば、メスだけ上がってくる川を作って三倍体なんかの遺伝子操作してしまおうと。そして、卵だけ採る川にしてしまおうや、売るようにね。そうなるかもしれない。』川よ原点に戻ってくれ!  十数年前、私が初めて東北の渓流で釣りをしたのがこの盛川の支流甲子川だった。以来この地の自然に魅せられしばらく通うことになったのだが、ここ数年足が遠のいていた。ところがその甲子川で今ダムが建設中だという。

鷹生ダム建設現場
 『これは、多目的ダムです。これ意味が曖昧で、治山・治水とかじゃなく多目的ダムという腹のたつね……。
 んぼがあるわけじゃないしね、人家がそんな多いわけじゃないし、水に不足することもないしね。
 これ政治的なものですよ。だからこれ、腹たつんだって! ここにけっこう国有林あるんですね。で、国も同意してる近辺田んですよ。』
 またもやという典型的構図である。では、反対運動は起らなかったのだろうか?『起らなかった。市長そのものが先になってやったし、町自体がもう死んでる町だもの。なんか事業やらなきゃ。』 
 ダム建設がどんな事業に結び付くのか解らないが、五葉山から流れるあの甲子川の自然はもう失われたのである。
 ついでに云えば、三陸沿岸では仙台と宮古を結ぶ縦貫道路も建設中である。これによる生体系や河川への影響もではじめている。
『前の千歳川ね、あそこ高速道路、上に出来たでしょ。水が全然なくなったもの。』
 ダム建設と平行して付近に温泉も発掘されている。川の自然を守りたいとする釣り人の立場からすれば『ph9なんぼっていうから川はかなりやばいなと』危惧する木下氏と同様、先行きが思いやられる。
 『学者に云わせるとこんな川はないつう。まず、河口からサケ、ハゼでしょ、アサリ、ウグイ、川ガレイ、沼ガレイ、白魚、ウナギ、川カニ、川エビ、フナ、コイ、ヤマメ、イワナ、カジカ、流程わずか15kmしかない限られたところでこんなに魚種のいるところはないと。放流しているのはサケ、ウナギ、コイ、ヤマメ、イワナぐらいであと育つわけないんで、でも川ガレイにしても沼ガレイにしても面白いほど釣れるんです。
 ウグイなんかサケみたいのが釣れる。自然繁殖してるんですね。禁漁区を開放するとき単純にウグイがどのくらい生息しているか計算したことがあったんですが、800万匹いた。』
 これほど豊かな川がいまピンチに立たされてしまった。
 『すぐに駄目になるか、何十年後に駄目になるか、逆に良くなるか。ただ、怖いのはダムも温泉もそうなんですけど、大船渡湾の埋め立て計画』。怖いというその響には、長年、川と魚を見続けてきた氏の絶望にも似た心境が込められていたように思う。
 『木売らなきゃ林野庁成り立たないでしょ。杉植えなさい杉植えなさいつって、杉植えた、ところが安い輸入材が入ってきて売れない、木切っても売れない。山なんかもう禿げ山ばっかりだから。現況への絶望はこんな言葉ともなる。
 『盛川も今は保水能力がなくなっている。てき川が川の機能を果たしていない。下水路になっている。コンクリートで護岸を作ってしまう、魚住める川でなくなっている。  魚の住める川にするには、これ行政にちょっと悪いけどね、大水で護岸を全部流して壊してくれればいい。それで川が本来の浄化作用をしてくれればいい。
 いままで行政が縦割で土木事務所と水産部では行ったり来たりしなかった。護岸工事するとき喧嘩したことがあって、魚をどうするんだつって。そしたら、それは水産部のことで、わたしらは土木屋だから行政が違うって、魚が川にいようがいまいがいいんだって、そういう言い方をする。ところが今になって動物愛護団体やら環境問題などで川をきれいにしましょ、川を遊び場にしましょとかいって、公園作ったり今ごろ始めた。
 もう遅いって。そんなのいらねって。むしろ壊してくれって。災害復旧もしなくていいつって。洪水でもなんでもいいから壊れて原点に戻ってくれって。大水の出た後の川はすごい川になるんだから。」

*(盛川に近い宮城県唐桑半島の水沼カキ養殖場の畠山重篤氏は湾内に流入している川の上流にダム建設の計画をあるを知り、海は森によって豊穰さを得ているのだと、ダム建設に反対し、森を守る運動を展開。それは「森は海の恋人」のキャッチフレーズの下、全国各地に大きな影響を与えている。

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