このインタビューは1996年に「カワセミの会」が行いました。

神奈川県 酒勾川

酒匂の自然児大いに吠える
酒勾川渓流クラブ 
   長谷川真介さん 

かつて遠くない昔、つい30年ほど前まで酒勾川周辺の田んぼの用水路にまで遡上していたという桜鱒。近隣の子供達を釣りに夢中にさせるほど群れる魚に満ちていたという。
 川そのものが用水路化してしまった現在にあっては昔日の面影を忍ぶべきもないが、子供の頃の日々をもう一度と、漁協の活動とは別に独自に西丹沢の各枝沢に山女魚の発眼卵・稚魚放流をしている酒勾川渓流クラブの長谷川氏を訪ね話をうかがった。

早春は渓流釣り、山菜採りに明け暮れ、その後どっぷり鮎釣りに。

◎当然、漁協のほうでも放流はおこなってるわけですよね。
 『そう、一本あたり50キロ、8本で400キロ 300匹でしょ。一日で終わりって。何百人て入ってんだから、解禁の日に。そんで50キロしか放流してないんだから釣れない奴はまるっきしだめ。
 結局放流の仕方が、組合の場合は限られちゃってるから。このねバケツで運ぶでしょ。ホースでやらないからバケツで運べるところしかやらないから。そのパターンを知っちゃてん奴はもうそこへ行けば必ず放流してあるつうの覚えちゃってんから。初めて行った人なんてのは絶対釣れないよ。まして天然物に近いようなのを釣ろうと思ったらまず3時間は歩くからね。普通の人は。俺なんてだと裏道を知ってんから。だいたいそこまでいくのに30分で行ける。』

◎ずいぶん差があるな。(笑い)
 『だから逆に言うと丹沢てのがあんでしょ。ここが頂上だとすんでしょ。裏からいくともうここだね。こっちが山北だとすんと裏側からまわんと車を止める場所はここ。尾根からここまであがんのと比べたらはるかにこっちのが近いでしょ。だから山梨まで行っちゃうの。』

◎山梨ってのはどういう事ですか。
 『だから山梨県には行っちゃうの。道志の方から入っちゃうの。道志側に平野ってあんでしょ。あっち側からはいるの。平野側からはいるとちょうど峠まで高低差で100メーターないから。車から降りて。ずっとこっちの切り通し峠から。歩いてね、ものの10分で峠までいっちゃう。そこから後は降りんだけ。源流まで降りて15分で行ける。それでいい場所まで山菜とりながらぼっちらぼっちら歩きながら入って、それからまた釣り上がってくれば充分遊べる。そこまでいくと放流もんていうか、うちで卵入れたのとかそういうのだから純に近い。だから釣れた魚は汚かない。養殖の尻尾が丸くなったようなんじゃないから。
 今はね、山菜採りが忙しいからさ。今は釣りはいっときお休みしてんの。この間みんなでてんぷらパティーやったの。
 うど、たらの芽、こごみ だいたいこの辺はいろんなのがけっこう出んだよ。これからだんだん上の方へ、富士山の方へ上がって行くから。だんだんと高度あげていく。
 ダムの建設の時に当時の組合幹部が頭良かったら、補償金に関して金で片はつけなかったはずだよ。』

◎渓流クラブ始められて今年で10年目ということなんですがこれは放流をされるためにクラブを始められたのですか。
 『そう、ずばりそう。要は組合がだらしないから。はっきり言うとね。漁業組合が。本来ね、どこの河川にだってさ昔はさ、鮎だって山女魚だっていたわけさ。ところが漁業組合、いま内水面にはいるところってのは殆どが鮎を主体にしてんでしょ。鮎、鮎ってね。鮎に何千万掛けてさ。渓流魚の方に200万掛けねえ。これは不平等すぎるの。本当云ったら。んでまして昔、自分ら子どもの頃は田圃の用水路にこんな桜鱒がはいってきたんだから。田圃の用水路に。網でとれたんだから。鮎なんて手掴み。山女魚だって結構いたんだから。それをね今組合の上層部の理事なんてわからないからだめ。結局ダム出来たときだってその当時の組合長とか理事らがね頭良かったら金でけじめはつけなかったはずだよ。補償金で。自分が思うには永年権を要求する、要は毎年酒勾川に鮎を永年300万提供して下さいって。その方のがよっぽど利口だった。それを一時金、株一口30何万でけりつけちゃったでしょ。そんでその30何万かもらって半端の4万いくらでもう一回組合を結成したんだから。一回つぶれてんだから保証の時に。』

◎組合も下流域と上流域分かれているんですか。
 『いや分かれてない。3ブロックに分かれて1ブロックが山北、2ブロックてのが松田、秦野の一部がはいってんの、大井、開成、南足柄、3ブロックが小田原市。』

◎中川の方に行くとまた違うんですか。
 『あれは山北第一ブロック。酒勾に入ってくるのは全部県を越えない限りは酒勾川の漁業権。
 漁業権あるんだけんど谷蛾いくと鮎沢に分かれんでしょ。組合は放流してないでしょ。うち(渓流クラブ)は鮎沢の方にも放流してるけど。だから小山の方まで酒勾川に入ってくる河川には全部放流してるから。』

◎ちなみに年会費はいくらですか。
 『年会費は三千円。個人的に自分が会長やってた時はいろんなとこ知ってたから。まあ、ちょっと寄付してくんねえかとか。それなりのことを普段からちゃんとやっとけば。普段からばらまいといてね。』

◎すると組合はそれを集めるのも大変ですね。
 『会費? みんなわかってんから総会の時に持ってくんから。後は会計の方へ振り込んでくれつって。イベントやんときだけ別に一回に千円ぐれえ出してもらって。材料とか色んなのを買うからさ。』

◎釣り大会みたいなものはやるんですか。
 『大会ってのはあんまり好きじゃねえから。本来ああ云うもんはやんもんじゃないつって。
 渓流なんてのは釣れても釣れなくっても山中歩いてさ、釣れなきゃ釣れないでその辺で山菜とって。結構今の時期はうちの連中もあまり入ってないね。山菜採りのが忙しいんじゃないかな。』

◎いまこのへんの山女魚でどれくらいのが釣れますか、尺上ものはいないでしょ?
 『いやあ、でるよ。だけんど条件がそろわないと無理。やっぱね雨がね50ミリ以上降んないと無理だな。
 今は逆にいうとさ、でけえのが連れたらおっ放してくるようにしなきゃ駄目。後のこと考えたらね。もうね禁漁をさ、本当はね10月の14日まで釣らしてんけんどあれがいけない。本当だったら8月一杯ぐらいで禁漁にしちゃうんだ。そのかわし解禁を早くしてやりゃあいい。正月から解禁にしちゃってさ。本当はその方がいい。そうすりゃ8月一杯で止めちゃえば卵もって、これから産卵前の荒ら喰いするときにみんな釣っちゃうんだから。そう云うことを組合の上層部に云っても、いやあ県の方のあれがどうのこうのっていってさ相手にしない。県の方に働きかけると組合の方から申請してくれば県のほうはそのようにする、動きますってえけど、結局はイタチごっこだよ。本当に釣りの好きな人がそういう役をやればいいんだけんどそうじゃないから。今漁業組合でやってる人たちってのは退職して片手間にやってんようなもんでしょ。魚の生態そのものも知らないような人が理事やってどうのこうのつってやってんようなもんだからさ。』

◎どこも理事ってそうみたいですね。政治的なあれでね。
 『組合長になんと、自分の気にいんない理事をおっぽりだす。反発するような理事をおっぽりだす策を練ってさ。自分も組合の役員やってたけんどやめちゃったんだ。そしたら松田でやってた人が亡くなったんでやってくれって。まあ、代わりだったら、やり手がないんだったっらしょうがねえ。やってやんべえ。今日も役員会だけど行ったってろくな話じゃねえからいかねえや。あんなの行ったて1時間かそこら話してその相談に3千円づつみんなにやんだよ。人件費ばかり喰って。人件費、馬鹿になんないね。』

◎組合員は何人くらいいるんですか。
 『2500人くらい。だいたい組合員になるのは年間に60日位釣りやる人が組合委員になれるつってかのかな。だけどそれに該当する人間てのは100人いないでしょ。
 昔は職業漁師的な人がいたでしょ。いたって云う話だけど今はいないね。
 年間60日釣りはいるったらまず希でしょ。松田じゃ俺ともう何人かしかいないね。俺の場合は山女魚釣りから始まっちゃうから期間が長いから。鮎釣り始まん前に40日ぐ
ら行っちまうからね。鮎始まれば殆ど毎日でしょ。濁っちゃうともう鮎釣り出来ないから俺ならやまめ釣りいっちゃう。本川でこんなに水が入ってりゃ絶好調だからってすぐ山いっちゃう。』

カムバック サクラマス

◎本流で釣るって事はあまりないんですか
 『たまにあるよ。本流でもいるからさ。サクラが。開成町側に深いたまりがあってさ。ばしゃってはねるから。一発でわかるから、サクラって。』

◎小さいうちにわかるんですか。これは落ちる(海に降る)って。
 『だいたいわかる。銀化してる奴は落ちる。相模でも川に戻すってのがあって新聞に出てたけど。
 でも酒勾の魚使ってんから、相模でやっても自分の考えとしては酒勾に戻る。相模でおっぱなしても。母川回帰だから。海岸線の距離にして20キロしかないから。
 酒勾の水で孵化して20センチ以上の銀化だけを相模にいれても一部は上がるかもしんないけど殆どは酒勾にくる。そりゃ母川回帰だからぜったいこっちへきちゃうって。相模の人らがぼんぼん入れてくれれば酒勾だってもっと魚がふえるよ。』

◎あれはなにをかぎつけるんですか。
 『あれはやっぱし水だね。前鼻孔 後鼻孔ってのあって自分の生まれた河川の匂いをかぎわけっちゃうってから。
 酒勾川の水系で育てた魚をいくら相模へいれても戻らないね。相模で育てた魚ならそりゃわかる。まず100本のうち2本ぐらい間違えて上がってくるのがいるね。』

◎昔は相模も上がってきたんでしょ。

『たぶんね。太古の昔はだいたい海だったっていうからね。富士山の裏側まで海だったって云うくらいだから。』

◎向こう(相模)は養殖してないんですか。
 『むこうもやってんでしょ。道志のほうにやっぱしやってんのがあるから。
 あそこで買えばいいんだけんどなぜか相模の連中はこっちに買いにくる。こっちの魚のほうが物がいいから。でも、母川回帰ってことを根本的に考えてやんないと。
 うちのほうは結構おおきいのが出るよ。40センチ、45センチくらいのがざらにでるよ。サクラ。餌はキジあとはルアー。最近は結構増えてるよ本川でやる人も。よくみるよ。
 でかいのがいるってのが評判になってるから。』

◎そういうの知られた方がいいですか。
 『いやあ。知られないほうがいいけんどね。だいたいね、でかいの釣るとあちこちで云うから、だんだんとそのうわさが釣り道具屋へいって。あそこででかいのでたらしいよってね。まだ、いんみたいよって。』

◎あんまりわっと人がきちゃうとね。
 『まあサクラはね、よほど条件そろわないとくわない魚だから。もう遡上し始めちゃうとほとんどえさ食わない魚だから。鮭もそうでしょ。あがりはじめたらほとんど産卵終わんまでたべないでしょ。あれとほとんど同じ。希だからね。』

◎サクラは産卵終わるとだめ?
 『駄目。改修工事もいいんだけんど、ヘドロ混ぜて流しちゃうでしょ。淵から何から埋めちまって魚が付くところがないんだよ。』

◎丹沢湖で育って上へ上がりそうだけどね。
 『上がらないね。堰堤の高いのがあるから無理だね。さんざん魚道作らせろっていったけんど駄目だったね。最近、県土木でも河川改修にすんのに魚道つけはじめたね。やっとわかりはじめたらしくてさ。やっと魚道つけはじめたね。ほんでこの間もこのちょっと支流で工事やってたから、なにやんのよって聞いたら、魚道つけんだなんつうから魚道つけんならおめえら一番下からつけんのが筋道だろ。おめえこんな真ん中に魚道つけたってしょうがなかんべって。だいたいおめえら作るのはいいけんどよ、またやりなおすようなことはすんなよ。
(中略)人間もあがれねえような堰堤作っちまって魚があがれるわけねえだろうって。』

◎そうすると騒いだその地区から魚道作りはじめるのかな。
 『改修工事もいいだけんどさ、ヘドロ混ぜて流しちゃうでしょ。ユンボでガリガリやって。ドロやられんと鰓やられてみんな駄目なんだ。でもねもう魚いれてもねイタチごっこ。どこやんかこっちはわかんないじゃん。工事の箇所が今年どこやんかが。ほんでね卵いれんでしょ。もうこんなもんでそこひっくり返し始めんからね。枝っていう枝はほとんど入れてあんだけんどね。支流の枝にね。種沢にしようかとおもって結構入れてあんだけんど毎年川いじくり過ぎちゃうから。もう小さい枝沢なんつったら機械が入んと、川幅いっぱいにがあっと機械が押していっちゃうから、淵からなにから埋めちゃうでしょ。魚の付くとこがなくなちっゃう。もうちっと考えて工事もすれやいいんだけんど。』

◎立入禁止というか釣り禁止の区域を作るというのはどうですか。
 『言ったって駄目。組合にもね、これより上流は種沢のために禁漁にします。山北なんかだと仲川玄倉、大又とかみずのきとかあるからこれをね上流部を全面禁漁にするとか、そんじゃなかったら一河川づつを4年おきにサイクルさせろつったの。ある年にはその河川を特別解禁として特別料金とればいいつったの。でも駄目。組合自体が経営のしかたがわかってないの。
 幾ら話しても駄目だから自分も組合の役やめちゃったんだよ。』

◎ところで、このへんはアマゴはいないんですよね。
 『混棲だよね。アマゴは放流はしてないけどね。放流は完全に山女魚だけ。』

◎このあたりが山女魚とアマゴの境になるんですか。
 『大島博士がいうにはそうなんだけんど。自分が考えるにはそうじゃない。多摩川が分岐点だと思う。』

◎えっ、多摩川!
 『おれが思うには相模も混棲地帯。太古の昔、富士山があんなにでかくなる前は海の中に浮かんでたんだから、要は富士山の裏側まで海だったんだから。相模湾とずっとつながっちゃってたんだから。昔は道志でだってアマゴがでてたんだから。
 地質学者にいわせると甲府盆地まで海だったって。だから向こうにもアマゴがいるんだって。
 まずこのへんはアマゴに似た山女魚。側線上にピンク色に帯がずーっと入ってんようなのと、側線上に赤点が散ってるのとか。
 専門家にいわせんとこれは完全に雑魚だね。アマゴでもないし山女魚でもない。太古の昔からこの近辺には山女魚とアマゴがおたがいに生息してたから普通に自然交配してたからそういう種ができてきてあたりまえ。
 または山本素石と開高健の著作のなかで日光やまめ、中禅寺湖の、これがびわますとさくらますの掛けあわせ、これを入れるとこういう系統のものもできるっていうんだ。』

歯に衣を着せず、‘組合はだらしがない‘と断罪する長谷川氏の正論は冴えわたる。砂防ダムが続き自然交配の望めない山岳渓流にあって長谷川氏のような継続的な放流活動をみていると、私たち都会の釣りファンは呑気に竿をだすのはためらってしまう。

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