このインタビューは1996年に「カワセミの会」が行いました。

東京都 多摩川

川面の素顔に迫る!

多摩川漁協役員 杣田(そまだ)恒春さん
大正l3年生まれ、KE10シニアクラプ会員、

ワカサギ釣りにかけては四十年以上のキャリアをもつ。
釣り具『かわせみ』店主
大正・昭和・平成と見つめ続けて来た多摩川の現実を語る。        
                 聞き手 菊地秀一 

 多摩川漁協の八王子支部ってのは、現在約八十名ほどの所帯で、下流は東京湾への流れ込みまでを、上流は、拝島橋までを管轄している,この支部の担当地域は、うちの漁協の中でも受け持ち範囲が一番広い。なにしろ、多摩川から浅川、それに多摩川の支流のほとんどが入るもんだからね。
 で、その管轄内で工事があるとなると、工事屋とこんな話をするわけだよ。協力する代わりに、工事が終わったらここんとこ深くしてくれとかさ。ユンポを上げる前にね連絡をよこすようにってね。そうでもしないとね、釣り場がなくなっちやうからね、工事をやられると。

 とにかく工事が多くて、そのたびにそんな風にして、あちこちに釣り場をつくらせないと、しようがないんだよ。大変だよ、そんな風に釣り場づくりがあったり、サカナの移動があったりで、もうしょっちゅう出掛けてるよ。
 工事のときには、まず事前に、南多摩建設事務所あたりの担当官が業者と一緒に、説明に来る。
 それでああそうかってなると、今度は現地へ出向いて、サカナがいるところがあれぱ移動させるから、ついてはこちらの方でできるならやってくれといわれることになる。
 ところが今は機械化が進んでいるので、作業員がすごく少ないんだよ。しかも、いざ移動となると、手網なんかじゃ手におえないからね。
 たとえぱコイなんかは、10号っていう太いナイロンで編んだ網を使うんだけど、土左右衛門なんかでも引き上げちゃうようなやつだよ。そのくらいの糸で編んだ網でも、12匹も入ったらまず切れちゃうからね。
 でね、サカナ移動だなんていうとね、厄介なことにどっと鳥がやって来る。連中にとっちゃサカナはエサだからね。どこでかぎつけるのかと思うほど集まって来る。
 で、サカナを上げるために、本流の水を他へ流すでしょ。その水が浅くなるのをじっと侍ってるんだよ。逐ったって逃げやしないね。もう、人間なんかをこバカにしちゃってね。鵜にしても都鳥にしても。都鳥なんて、すごい度胸だよ。ユンポが掘ってたって、ユンポすれすれに飛び回ってサカナをさらってちゃうからね。
 この鳥の問題は、放流の時期になるとますます深刻なんだ。地元にいるやつらの他に、上野の不忍池や浜離官からも遠征してくるんだが、登戸まで40分で来ちゃうんだ。それにプラスl5分で八王子に現れるんだよ。
 役人は、十、十一月に、サカナを放流しなさいっていうけど、そのころって鳥の連中もエサが足りない頃だろ。なんだか、鳥にエサまいてるようなもんなんだよな。
 鵜ってのは、てめえのカラダの重さ分だけエサ食うっていわれてるんだ。そんなのが、都心から七千羽も来るんだからね。
 やつらのやり方を見てると、まず最初の一羽が高度五○メートルくらいで、偵察して、次に二、三羽が三○メートルくらいで様子見て、大丈夫だとわかるとわっと来るんだ。
 なぜ、鵜が来るかというと、その時期は丁度河口付近のサカナは深みに潜って、エサ不足なんだ。
 連中は四月頃には、海で小魚が獲れるんだよ。冬のあいだ深場にいたサカナが春になるとエサ場を浅瀬に求めて上がって来るだろ。だから、その時分には、連中にしてもわざわざ八王子くんだりまで遠征して来る必要がないわけだよな。河口の方でエサが獲れるわけだから。自然っていうのはうまくできてて、子育ての時期には近場でエサが獲れるんだ、ところが、だんだん寒くなると、サカナは深場に入っちやうし、海は汚れてるから、サカナが見えない。
 そこで、いきおい深みのない川にエサを求めて上がって来る。そこに放流してるわけだからさ、丁度食べ頃ってサカナを。
 だから、三月頃に放流させてくれって、意見を出してるんだよ。ところが、昔から放流は秋と決まってるからと、行政は動かないし、漁協自体も動かないんだよ。
 たしかに、昔は鵜だとか都鳥なんかが、放流の障害にはならなかったんだけどね。ところが今は、鳥どもにエサをまいてやるようなもんなんだ。わざわざ連中を呼び込むような形の放流になりつつある。
どうすりやいいかははっきりしてるんだ。要するに、放流時期をずらせばいいんだが、役所システムががんとして、それを阻止してるんだな。

以前より奇形は減ったが…

 その役所が遊漁券の値段を決める権限までにぎってるんだ。つまり都だな。お役人は、漁協に事業をやりなさいっていったり、工事の際には保証が出たりするけど、漁協本来のあり方からすると、目的はあいまいだよな。
 だってそうだろ。漁協っていったら、本来はその川でとれるサカナを獲って、生業としている人間の集まりだろ。ところが、川が汚れちゃうと、それが立ちゆかない。いま、浅川でとったサカナを食べる人は現実にまずいないからね。そうなると遊魚券を売るしかない。入漁券じゃなしに遊漁券だよ。苦内の命名だよな(笑)。
 ところが、住民は浅川はこどもが遊ぶのに安心だから、チョロチョロ流れてるのがいいっていう。むろん、そんな、川ともいえないような川に、サカナは住めない。一方で、建設省の役人は、一級河川っていうのは、川でなけれぱまずいというし。役人は、50ミリ/時の雨が降っても水があふれない川を目指してる。
 そこヘ、関西の地震からこっち、かなり橋桁補修をはじめてる。川に抵抗になるようなものは、撤去するとかね。
 そんなこんなで、工事工事さ。今年(96)だと、今わたしんとこへ書類が来てるだけでね、15カ所もある。
 もっとも近頃では、新しい工夫もされるようにはなった。たとえば、水辺の公園のような形で。それで、カワセミの営巣してるところを外して工事したり。いわゆる、生き物にやさしい工事の形が現れては来た。
もっとも、カワセミがいる川はきれいというイメージは幻想だよ。
 カワセミだって、水に毒物さえ混入してなくて、かつサカナが泳いでるのが見える程度の水なら、かなり汚れてる川でも平気で生息してるよ。
 カワセミっていうのは、木の枝にとまったり空中で静止しながら、じ〜っと見ててね,サカナが50センチくらいの浅瀬に出て来ると、垂直に突っ込んでいってさっと獲る。それは見事なもんだよ。
 このあたりじやね、わたしが子供のころ、家の裏っ方が、7メートルくらいの赤土のがけだったんだけど、そこへカワセミが巣をつくったりしてたもんだよ。巣っていうのは、垂直に赤土の土手なんかに、1メートル以上穴を掘ってね。その中に巣をつくるんだ。
 一度なんかよしゃいいのにいたずらごころ起こして、一回獲って育ててみようかって思って掘りはじめたんだけどね、いくら掘ったって出て来ない。そのうちにこっちがおっかなくなっちやってね。そんな笑えない話もあるほどだった。
 ところが、わたしが、釣り道具屋をはじめた二十年ほど前なんか、そのカワセミさえ見た人なんていない時分だったからね。わたしが店の宜伝で、カワセミが来る川であってほしいとか、言ってたくらいだからさ。その頃は、まだせがれが小さくて、浅川で獲ってきたサカナを見せて、お父さんからだに穴があいちやってるんだよとか、背骨が曲がってたりしてるのを見て目をまるくしてた時代だった。あれはあれでひどい時代だったな。
 それがここんところ、目に見えて奇形が減った。つまり、以前より水は浄化されたと思えるのに、肝心のサカナを取り巻く環境は相変わらずお寒い限り。サカナの受難の時代はまだまだ続くよ。
 たとえぱ、ヤマメやニジマス、ヘラやコイやアユなんかの放流魚でさえようやくという現実の中で、マブナとかオイカワ、ウグイとかね、モロコとかクチボソ、アブラハヤとかドジョウとかナマズあたりの、放流してない自然に川にいたサカナがもろに数を減らしている。
 たとえばカジカなんかは、もう非常に少ない。南浅川とか北浅川の上流とか、山入川とかでしか見かけられなくなった。この類の稀少魚では他にホトケドジョウ、シマドジョウ、カマツカとかね。
 カマツカっていうのは、砂地にいてね。わたしらこどもの頃は砂吹き砂吹きって呼んでたんだけどね。それも、もう釣るほどはいないよね。
 砂地自体が、減ってるんだ。だいたいにおいて、砂地だったようなところっていうのは、今はヘドロ化してるからね。

川をきれいにしたい一心で活動

 たとえぱ三月の末に工事が終わるとするだろ。そうすると、川がきれいなら四月半ば頃には、いたるところにサカナが産卵するところが出てくるはずなんだけど、それが全然出て来ないってことは、砂地も石の上も、ヘドロがおおちゃってるからなんだ。
 そんな状態だから、あえて産卵場所をつくってやらないとダメだね。産卵場所をつくるところは、深みのすぐ上の瀬とか、深みのシリの瀬だとか。という風なところにつくるんだけども。アワがたって、水がどっと落ちるようにする。まず一メートルくらいの深さに穴を掘って、その半分くらいのところまで大きめの石で埋めて、その上を細かい石で水面まで上げるんだ。
 さらにその上流側に人工的に瀬をつくって、酸素が水に混じるようにしてやる。その水がど〜っと落ちて、石の中へす〜っと吸い込まれて行くような状態になれば、サカナたちは、待ってましたと、そこへ卵を産み始める。
 そうやってこしらえてやれぱ、たとえユンポがさんざんかき回したところでも、石さえ新しければ、卵がつくはずなんだけど、実際にはつかないんだよ、これが。川が汚れてるから、二、三日で石が汚れちゃうんだな。サカナにとっちゃ卵を生みづらいという状況だよね。
 ところが、その孵化場づくりさえ、遠からず暗礁に乗り上げかねない。いまうちの漁協でも、孵化場づくりをできる人間が数えるほどになってきてるんだ。孵化場つくるの講習会をやってもらいたいっていう要望が出て来てるくらいだからね。
 うちの方で責任もってる孵化場は5ヵ所なんだけど、その5ヵ所をつくるのだって、仲々大変なんだよ。
 一つの孵化場をつくるのに、三人がかりで、半日はかかるのが常識だからね。

 そこまでしても、産卵したのが、どの程度育ってるかっていうのは、最近では非常にわかりづらくなってきたね。 五年くらい前までは、夕方暗くなった頃をみはからって、懐中電灯をもっていって川の面を照らすと、子魚が一斉にぱ〜っと飛び上がったもんだよ。そりゃあきれいなもんだったね。でも、そういうのは、最近では見られなくなった。というのは、結局工事工事で川全体を荒らしちゃうから、子魚が育ちにくくなって来ているし、生息できなくなって来ているってことが言えると思うな。
 今でもライトを照らすと、全然飛び上がらないってわけじゃないんだけど、明らかに数が激減してる。
 そうすると、これから何年か経ったときに、産卵するサカナ自体が、ものすごく数が減っちゃうんじゃないかって心配がある。もう、不安でたまらないね。
 それでも止められないんだな。止めちゃならないんだよ。なんで、そんな大変でもうからないことしているのかって? かっこいいことをいうわけじゃないんだが、煎じつめれば、川をきれいにしたい一心からさ。
 川がきれいだとうれしいってのは、だれだって同じだろ。
 要するに川というのは、人のこころにやすらぎをもたせるものなんだ。そういう川であってほしいんだよ。
          (釣り具『かわせみ』にて、本人談)

多摩川をめぐる新たな動き
 
多摩川は、全長126キロ。山梨県東部の関東山地南部にみなもとを発し、東京都青梅市から武蔵野台地と多摩丘陵の間を南東に貫いて東京湾へと注ぐ。
 万葉むかしから、関東の清流と呼ばれていたが、戦後は見る影もない。おおきな原因は、流域の都市化と、上流部で水道水用に大半をカットされることの二つ。近年、下水道の普及により、いくぶん改善されたとはいえ、清流と呼ぶには、ほど遠い。
古い文献は、清流だった多摩川にはあわせて百種類ものサカナの生息を伝える。このうちとりわけ、川を上下するサカナは、ダムや、堰の完成により、受難時代が続いている。
 こうした現状を受け、多摩川を管理する建設省京浜工事事務所では、4年前から、『魚が上りやすい川づくり』を.合い言葉に、魚道の建設を開始した。
 多摩川本流には、上流の小河内ダムまての間にl4の堰がある。
同事務所では、多摩川水系で生息が確認された72種類の中から、アユ、ウナギ、ギンブナ、ヤマメなど8種類について、これらのサカナが堰を上下できるような魚道づくりを目指すことにしている。         
                     (菊地)

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